クラック(ひび割れ)とチャールズパッチ

革靴を長く履いていると、アッパーに小さなクラック(ひび割れ)が入ることがあります。
避けようのない経年変化のひとつですが、そのままにしておくと裂けや剥離へと進行してしまうことも。
今回は、そうしたダメージに対して「チャールズパッチ」という方法を選びました。
傷を隠すのではなく、履き込まれた表情をそのまま受け入れ、革あて補修によって靴の個性を整える。
チャールズパッチという考え方
チャールズパッチは、アッパー表面にもう一枚の革を重ねて補強する修理方法です。
一般的な「隠す補修」とは異なり、補修箇所がほんのりと残ることで、靴の表情に深みを与えます。

チャールズパッチの特徴
- ダメージを覆い隠さず、靴の個性を活かす
- 補修箇所を意図的に“見せる”デザインにもできる
- クラックの進行による貫通を防ぐ
仕上げ方によって印象は変わりますが、今回は「馴染ませる」よりも「活かす」方向を選びました。
新しい革を加えることで生まれるわずかな陰影が、履き手の時間を映すように感じられます。
仕上がりについて
補修部には、もとの色味と風合いに近い革を選び、過度なコントラストを避けました。
確かに補修跡は見えますが、靴全体で見たときには自然に溶け込んでいます。

色味と質感の調整
- 元の革に近いトーンを選定
- 照明や角度によって異なる見え方を確認
- 羽根が落ちるラインを拾う
しかしながら、デザインに本当の正解ありません。
しっかりと打ち合わせをして臨みたい修理です。
チャールズパッチを選ぶ理由
チャールズパッチは、ただの修理ではなく「どんな風に履き続けたいか」を表す選択でもあります。
完全な再生ではなく、時間を積み重ねた靴の“余白”を残すこと。
そこに、この技法の美しさがあります。

こんな方におすすめ
- 履き込んだ味わいを残したい方
- パッチワークデザインに抵抗のない方
- デザインとしての補修に興味がある方
おわりに
チャールズパッチは「目立たなくする」ための修理ではありません。
むしろ、履き込まれた跡を受け入れながら、これからも履ける形に整えるための方法です。

クラック補修に“これが正解”という形はありません。
状態や素材に合わせて、できるだけ無理のない形に整える——今回はその一例です。




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