息をのむような一足と、黒染め

とんでもない代物でございます。
エドワードグリーン、旧工場製のデッドストック。
しかも未使用の状態から手を入れるという、ある意味では贅沢な選択です。
別注仕様かつモデル名の記載がないため確証はないのですが、おそらくモンペリエではないかと思われます。
フルサドルのラインが非常にエレガントで…と語り続けてしまうと少し安っぽくなりそうなので、この辺で。
そして今回の内容は、修理でも磨きでもなく「黒染め」です。
元の色も非常に魅力的ではあるのですが、ライフスタイルやファッションは人それぞれ。
さらに、こういった今では手に入りにくいデザインの靴は、必ずしも理想の色で出会えるとは限りません。
そのギャップを埋める手段のひとつが、今回のような染め替えです。
染料染めにおけるリスクと対策

ここで一点、少し言い訳がましい話にはなりますが…
染料染めの際、ステッチ穴などから染料が内側へ侵食し、ライニングに滲みが出ることがあります。
もちろん細心の注意を払って作業は行うのですが、構造上どうしても避けきれないケースも存在します。
その点については、事前にご了承いただいたうえで作業を進めています。
とはいえ、事故はできる限り防ぎたい。
今回はインソールカバーとライニングにマスキングを施し、万全の状態で臨みました。
履き口のテーピング部分まで染める必要があったため、かなり神経を使う工程…
赤みを消すための下地処理

毎度のことながら、染めの前には脱色工程が入ります。
ただ今回は思ったほど色が抜けず。
アセトンなどの溶剤を強く使いすぎると革へのダメージが大きくなるため、今回は無理をせず、下地として緑の染料を入れる判断をしました。
絵を描かれる方やフォトショップを使われる方であればイメージしやすいと思いますが、元の赤紫系の色味を打ち消すための補色的なアプローチです。
黒染めは、実は「赤みとの戦い」でもあります。
単純に黒を乗せるだけでは、光の当たり方によって赤っぽく反射し、ダークブラウンのように見えてしまう。
その状態は、やはり美しくありません。
黒染料の定着と“黒”の成立

下地を整えたうえで、黒の染料を重ねていきます。
調整を繰り返しながら進めていくと、徐々に赤みが落ち着いてきました。
染料の段階でしっかりと締まった黒が出てくれれば、あとは仕上げで整えるだけ。
ここまで来れば、ひとまず安心です。
THE LABO ディープブラックでの仕上げ

染め後は革に水分を戻し、仕上げの磨きへ。
今回使用したクリームは、THE LABOのディープブラック。
おそらく靴好きの方でなければあまり知られていないかもしれませんが、個人的には現時点で最も黒の発色が深く、美しいクリームだと感じています。
お気に入りの一品なので、気になる方はぜひ調べてみてください。
仕上がりと質感の変化

仕上がりはいかがでしょうか。
磨きを入れたことで艶感が一気に立ち上がり、かなりグロッシーな表情に。
もはや染めの工程以上に、クリームの質の高さに驚かされる部分もあります。
とはいえ、この状態が完成ではなく、ここからどう履かれていくかで表情は変わっていきます。
つま先の表情と今後の変化

つま先のアップで見ると、色の入りは非常に均一。
未使用の個体ということもあり、ムラも少なく仕上がっています。
気になっていた赤みもほとんど感じられません。
ただ経験上、この状態から実際に履いて、磨きを重ねていくことで、さらに奥行きのある黒へと変化していくはずです。
下準備が仕上がりを左右する

マスキング箇所も問題なく、無事に保たれていました。
この点は本当に一安心です。
どの作業にも言えることですが、最終的なクオリティは下準備でほぼ決まります。
今回もその重要性を改めて感じました。
何はともあれ、無事に終わってほっとしています。
染め作業はやり直しが効かない工程だからこそ、経験値の積み重ねあるのみですね。
関連記事は下記リンク先をご参照ください。
Edward Green(エドワードグリーン)Cadogan オールソール|マーティンオークバークレザー仕様
Edward Green(エドワードグリーン)CHELSEA オールソール|意匠を崩さず、履き続けるための修理

修理のご相談は、Webフォーム または LINE から承っています。
仕上がりのイメージやご希望の仕様がある場合は、写真を添えていただけるとご案内がスムーズです。


コメント