マドラスのトップリフト交換(レザーリフト仕様)
今回はマドラスのトップリフト交換のご依頼です。
編み込みの靴は久々に見たのでなんだか新鮮…

摩耗状態の確認と今回の選択

ヒールを拝見すると、ゴム部分が積み上げギリギリまでしっかりと削れていました。
ただし積み上げそのものは無傷で、まさにトップリフトのみを交換すべきベストなタイミングと言えます。
オーナー様からも「同様のレザーリフトで」という明確なご要望をいただき、いくつか部材候補をご提示したうえで、今回は高級レザーリフトであるマーティンオークバーク(Martin Oak Bark)を選択しました。
マーティンオークバークという特別な部材

このリフトは、がっつりとタンニンに漬け込まれて目の詰まった非常に硬質な革が用いられています。
革面の剛性に加え、ゴム面の耐久性も高く、見た目と機能を兼ね備えた素材です。
トップリフトという消耗部品にこだわる意義は、単なる交換作業ではなく「靴の品格と寿命を整える」意識に近いと考えています。
細部に宿る“変えない”ことの価値

些細な話ではありますが、元のトップリフトの革面とゴム面の面積比率を銀ペンで慎重にトレースし、極力オリジナル通りに構成するようにしています。
この違いが何か劇的な変化を生むかどうかは正直わかりません。
ただ、「わざわざ変える必要のない要素は可能な限り残す」というスタンスは、私の中で大切にしている感覚です。
仕上げの表情と、履く人への想像

レザーリフトは一度履けばすぐ削れ始める部位ですが、それでも革への着色やエッジのコテ当ては基本的には行います。
見えなくなるからこそ、美しく整えて送り出す、もはや職人としてのロマンの域かもしれません。
それでも、トップリフトひとつが整うだけで靴全体の表情は引き締まり、また足を通したくなる佇まいが生まれます。
オーナー様にも再び気分良く履いていただければ本望です。
余談として ― 「買値」でなく「愛着」で選ぶということ

今回のオーナー様は「アウトレットで安く買った靴だから、高級部材で修理するのはどうなんだろう」と悩まれていました。
確かに、修理の要否や内容を購入時の価格や採算性で考えるのは多くの方に当てはまる発想です。
しかし最終的に「気に入っている靴だから、良い部材でしっかり直して履きたい」という選択に至ったことが、個人的にとても印象的でした。
ビジネス的ないやらしい話ではなく、ものの価値が“買った値段”や“原価”でなく、“愛着”や“視点”で判断される未来は素敵だなと。
修理をきっかけに、靴が再び愛おしく感じられる機会をつくる。
その一点に対して、これからも静かに全力で向き合っていきます。



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