ジョンロブ ナセビーに触れる

今回お預かりしたのは、ジョンロブ ナセビー。
トップリフト交換でのご依頼です。
靴の価値というものは、本来とても多面的で、価格やブランド、希少性といった外部的な指標だけで決められるものではありません。
第三者が一律に定義すること自体、本質的ではないとも思います。
ただ、それでもなお――靴好きの感覚に強く訴えかけてくる靴というのは、確かに存在します。
ナセビーは、まさにその一足ではないでしょうか。
確か現在は廃盤となっている、ジョンロブの最高峰プレステージラインのモデル。
ジョンロブファンの方であれば、7000ラスト+ダブルモンク+プレステージライン+廃盤という条件が揃った時点で、極めて価値を感じられる逸品ではないでしょうか。
まず手に取った瞬間に感じるのは、革質の異次元さです。
「きめが細かい」という言葉がこれほど具体的に当てはまる革もそう多くありません。
滑らかさの中に密度があり、張りがありながら硬さは感じさせない。
この質感は、やはりジョンロブの専売特許と言って差し支えないと思います。

ソールに関しては一度オールソールをされているとのこと。
ベヴェルドウェストの造形、そこからヒールの積み上げへと切り替わる際の、ほんのわずかな段差処理。
どこかビスポーク的な気配が漂う、とても手の込んだ作りです。
これはパリロブには見られない意匠で、既成靴ではエドワードグリーンのトップドロワーやガジアーノ&ガーリングの一部モデルに採用される仕様ですね。
細部に目を凝らすほど、「簡単に触れてはいけない靴だな」と背筋が伸びる感覚があります。
できる限り、触らない

今回はトップリフト交換のみのご依頼でした。
先ほど触れた通り、この靴にはあらゆる箇所に意匠が存在します。
だからこそ、修理において重要になるのは「何を変えるか」よりも、「何を変えないか」。
可能な限りオリジナルを尊重し、手を加えすぎないことが求められます。
また、ヒール形状も少し特徴的で、いわゆるピッチドヒールのようなラインを描いています。
オールソール時からの仕様だとしても、この靴が歩んできた履歴の一部であることは間違いありません。
もちろん、この形状もそのまま維持します。
マーティン オークバーク

使用する部材は、マーティン社のオークバークレザー。
最高峰の靴に対して、これ以上ない選択肢だと思います。
長い期間をかけて鞣された上質なレザーに、非常に強靭なラバーを組み合わせた構成で、耐久性という点においても他の部材を凌ぐ存在です。

変えない部分の話を続けるなら、今回は飾り釘も配置しています。
私の場合、ディバイダというコンパスのような道具を使い、元のトップリフトから釘の位置をトレースします。
そうすることで、できる限りオリジナルと同じ並びに見えるよう配慮しています。
もちろん、飾り釘を施すと相対的に滑りやすくなる側面はあります。
そのため、機能性を最優先される方が、この仕様を選ばれないケースも少なくありません。
……ただ、私ならロマンを取ってしまいます。釘欲しい派。
仕上がりについて

仕上がりはいかがでしょうか。
ジョンロブらしく、ウエスト部と同じ漆黒に染めたダブテイルリフトに、飾り釘の金色が静かに映えています。
主張しすぎず、それでいて確かな存在感があります。

ヒールラインについても、全体を整えつつ、元々の形状や飾り(ウィール模様)をきちんと残すことができたと思います。
写真ではヒールの輪郭がややぼやけてしまっているのが惜しいところですが、実物のシルエットは非常に美しいままです。
靴好きとして、そして修理職人として

いち靴好きとして、この作業を楽しめる機会をいただけたこと自体が、ありがたいことでした。
多くの職人は、最初はただの靴ファンからスタートしていると思います。
だからこそ、今回のような内容は、理屈抜きでテンションが上がります。
何より、ここまでこだわって作られた靴には、ディティールの随所からメーカーやこの靴の修理に携わってきた職人の哲学のようなものが感じ取れます。
当時の職人たちへのリスペクトを込めつつ、「できる限りオリジナルに忠実に」。
その一点を軸に、修理をさせていただきました。

修理のご相談は、Webフォーム または LINEから承っています。
仕上がりのイメージやご希望の仕様がある場合は、写真を添えていただけるとご案内がスムーズです。



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